食後30分間は歯を磨かない方がいい という話の大きな間違い
                     
ビーバー小児歯科
一部報道で、食後すぐに歯を磨くと、弱っている歯の表面が削れてしまうので、30分時間を空けてから磨く方がいい、と言っているようです。
この話はある実験結果を基に、出来上がった意見ですが、皆さんが誤解しないように、説明しておきたいと思います。

この実験を簡単に説明しますと、
 抜歯した歯をスプライトライト(多くのスポーツ飲料やイオン飲料も同じ考えていただくといいでしょう)につけると、歯の表面が酸で溶ける。
この溶けた歯を取り出し、何も飲み食いしていない人の口の中に入れると、だ液の作用で再石灰化が起こり、溶けた歯の表面が強化されてくる。
それが30分以上口に入れたままにしておくと、歯ブラシをしてもあまりすり減ることはないが、30分以下だと(10分や20分では)再石灰化が不十分なため、歯ブラシをするとすり減りやすい、というのです。

しかし、現実にはこのようなことは起こりえません。
飲み食いした人の口の中では、歯が溶ける脱灰のほうが再石灰化より勝っているため、30分まではむしろ歯が溶けるほうが強いのです。


人の口の外の実験と、口の中で起こることを、一緒にしてしまっているところに問題があるためです。

この実験を図を使って詳しく説明すると、以下のようになります。
スプライト(PH2.9)の入った容器に、抜歯した歯を90秒浸け歯を溶かす。(これを脱灰といいます) (図1)



次にその歯を取り出し、正常な口の中に入れる。(何も食べていない人の口の中)
酸で溶けた歯を、口の中に入れると、 脱灰された歯に唾液中のカルシウムが取り込まれる。(再石灰化)(図2)
再石灰化が進むと、酸で溶けて弱くなった歯が再強化される。
この再石灰化の程度は30分未満では十分でなく、歯ブラシをするとすり減りやすくなる。 (図3)
30分以上再石灰化された歯は、歯ブラシをしてもすり減る程度は少なくて済む。 (図3)
というものです。
図3は実験結果をグラフにしたものですが、確かに30分以上経過したものと、それ以下のものではすり減り方に違いがあります。
                                             
図3

実験では、スプライトに入れ脱灰された歯を口の中に入れると、すぐに再石灰化が始まります。(図2)
しかし、実際の口の中は何かを飲み食いした後は、脱灰と再石灰化が同時に進行しますが、再石灰化より脱灰のほうが強く起こっており、
約30分ほどは歯が溶けるほうが勝っているのです。(図4)
脱灰のほうが再石灰化より勝っている時間は、およそ30分と考えていただけばいいと思います(図5)

何も食べていない口の中と、脱灰が進行している食後の口の中では、状況が全く違っています。
日常生活で食後30分歯を磨かないと、充分歯が溶けるのを待つという、何とも矛盾したことになります。

飲食後の口の中は、下の図4や5のようになっていて、飲食後約30分ほど歯は溶け続けています。
再石灰化より脱灰(歯が溶ける)の方が勝っているのです。



 これでお分かり頂けたと思いますが、自分で飲み食いする場合、食後はできるだけ速やかに、歯を磨くようにされることをお勧めします。
また歯を磨くときは、できるだけ歯ブラシを小さく動かすようにすると、歯がすり減るのを抑えることができます。
歯ブラシを大きく動かして歯を磨くと、歯のすり減りかたも大きくなってしまいます。
すでに象牙質が露出して、知覚過敏になっている方は、特に歯ブラシの動きを小さくされるよう気をつけてください。


あえて「食後30分は歯磨きをしないほうがいい」ケースを考えるとすれば、実験と同じような条件が存在する場合です。
おそらく以下のようなケースが考えられます。

かなり無理のある想定ですが、一つ目は
 実験で使った歯は、プラ―ク(歯に付くばい菌のかたまり)が付着していなかったはずなので、何かを飲んだり食べたりする皆さんの歯に、
全くプラ―クが付着していないケースです。プラ―クが付着していなければ、細菌による飲食後の脱灰は起こりません。
食べ物や飲みものの、酸性の影響だけになりますので、実験と同じ条件が整います。
この場合は、歯は磨かないほうが充分な再石灰化を期待でき、歯は削れにくくなるでしょう。
しかし、歯に汚れのついていない人など、恐らくどこを探しても見つからないと思います。

あと一つ、皆さんの口の中と同じように、プラ―クが存在するとして、30分以上たってから磨くほうがいいケースがあるとすれば、歯にプラ―クが付いていても、プラ―クが酸を作り出すことのできる物質(砂糖その他の糖)が全く含まれず、酸のみの飲食物を口にする場合です。
しかし、酸のみの食べ物は存在しませんので、除外することになります。
ノンカロリー飲料にもプラ―クが酸を産生出来る物質が、含まれている可能性が十分あります。
普段使うお酢でも、酸のほかにいろいろな物質が含まれていて、プラ―クに影響を与えると思われますので、これもだめのようです。
酸しか含まれていない飲み物もなさそうです。
でもこのような飲み物なら、多くの飲食物より酸だけの影響に近いといえます。
しかし運動中など、ノンカロリーの飲料でも頻繁に飲んでいると、酸によって歯が溶けるほうが、再石灰化を上回るため、酸蝕症で歯に穴が開く危険が
高くなります。スポーツにはお水と少しの塩にされるのがいいかと・・・

やはり何かを飲み食いした後は、できるだけ速やかに歯を磨いたほうが良さそうです。
くどいようですが、決して強い力で歯ブラシを大きく動かして、歯を磨かないようにしてください。
乱暴な磨き方をすると、食後の時間に関係なく、歯がすり減ってしまいます。

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