「母乳育児のすすめ」

    母乳育児でむし歯にしないために

以下の文は「小児歯科臨床」という雑誌に掲載したものに、すこし変更を加えたものです。母乳育児中の方や、母乳育児を推奨される関係者の皆様にお読みいただいても、参考にしていただけるのではないかと思います。
                                    ビーバー小児歯科 俵本寛志

私は生まれてきた赤ちゃんを、母乳で育てられることをおすすめしています。しかし、長期にわたり母乳を与え続けている幼児の中に、上の前歯にむし歯をつくって来院するお子さんがいます。生まれてきた赤ちゃんを母乳で育てることは、とてもすばらしいことです。しかし、いつまで母乳を与え続けるかという点で、様々な意見があるようです。私は卒乳(断乳)の時期について議論するつもりはありませんが、1歳代でむし歯をつくってくる子どもがいるのは事実です。そしてその子どもたちの中に、母乳を飲み続けている子どもが多くいることも事実です。かわいい子どもたちが、このような被害に遭わないようにするにはどうすればいいのか。そして不幸にもむし歯になってしまった子どもたちに、何をしてあげればそれ以上ひどくならないで済むのかを、私なりに検討したことをお話ししようと思います。

私がこれまでに出会った低年齢児でむし歯が出来た子の中には、いくら調べても母乳しか原因の見当たらない子もいました。しかしそれはほんの数名で、その子達は寝ながらおっぱいをくわえていたか、それに近い状態で母乳をもらっていた子でした。むし歯の部位も上顎前歯の口蓋側に限局していることが特徴といえます。他のほとんどは、母乳以外にも原因が存在していました。 そして、その他の原因のほうが、歯にとって母乳より影響が大きいと思われます。長く () 母乳を与えていてむし歯が出来た子の日常生活を調べてみると、ほとんどの子どもは、食生活を含め日常生活がかなり乱れています。
朝起きる時間が遅い子、夜中まで起きている子、食事の時間が決まっていない子、お菓子やジュース、スポーツドリンク、イオン飲料、赤ちゃん用の○○といったものを欲しい時に飲み食いしている子、だらだらいつまでも飲み食いしている子などなど、生活そのものにメリハリがありません。生活にリズムが無いのです。子どもに母乳を欲しがられると母乳を与えるといった行為が、子どもにとっては習慣のようになり、やがてはお菓子やジュース、スポーツドリンクもほしがられると与えているということになり、低年齢児のむし歯をつくる主な原因になっているようです。欲しい時にはいつでもどこでもといった感覚です。我慢が出来ない子に育っていると言えるかもしれません。
これらのことから、低年齢児のむし歯をつくらないようにするには、いいリズムの日常生活を作り出すようにすることであり、リズムの乱れている子にはその立て直しを図ることが大切でしょう。私の患者さんを見ている限りでは、生活のリズムが良くなってくると、母乳を飲むことも自然に少なくなってくるようです。

一方、母乳育児を推進しようという方には、「母乳育児はすばらしいが、生活の乱れがむし歯に直結する」ことを、母親にはっきり伝えておいていただきたい。そして、小児歯科に携わる皆さんには、低年齢でむし歯をつくって受診する子どもがいれば、先ず食事調査を中心にした日常生活を調べていただきたい。そしてその中から問題点を探し出し、患者さんにもっとも有効と思われることを、母親と相談しながら改善していくようにしていただきたい。

何も母乳を止めさせることから始めるのではなく、低年齢児のむし歯は母乳以外のところの要因が大きい、というように理解していただきたいと思います。このように考え、行動を取れば、子どもの健康と健やかな成長を願う我々は、共にいい協力関係が保たれるはずです。

母乳でむし歯になるとか、母乳ではむし歯にならないとか議論するべきではないでしょう。
むし歯になって来る子がいることは事実なのです。それなら、どのような子にむし歯ができ、どのような場合、むし歯にならなかったのかを知り、問題を解決することが大切です。どのような点に注意すれば、比較的長く母乳を与えていてもむし歯にならずに済むかを、母乳育児をがんばろうという母親に伝えてあげることが親切というものでしょう。
また母乳育児をされている母親の皆さん、すばらしい母乳をあげようとお考えなら、つまらないお菓子やジュースなどあげていては、母乳のおいしさが子どもに伝わらなくなることを肝に銘じておかれるといいと思います。母乳を充分与えた後、卒乳してから市販の飲み物や食べ物を与えるようにしましょう。
子どものむし歯は歯だけの病気ではありません。「体のどこか(心も含め)が病気になっていますよ」というサインです。このようなサインを見つけたときは、母乳推進の立場の人も、小児歯科の皆さんもその原因を正しく突き止め、病みはじめた子どもの健康を取り戻すよう、協力し合って活動すべきでしょう。子どもたちの幸せのために、両者が是非協力関係を深めてくださることを願います。


このホームページを見ていただいた方から、メールでご意見を頂戴しました。
「自分の子は母乳育児の子どもだが、食生活をきちんとしていてむし歯もありません」というものでした。私は、母乳育児の子どもがみな、食生活に乱れがあるといっているのではありません。むし歯になってきた子で、かつ母乳育児であった場合、いつでもどこでも食べたいときに食べるというケースが多い、といっているのです。ですから母乳育児の方で、このようになっていれば充分注意をしていただきたいと思います。
母乳育児が少し長くても、食生活に乱れがなければ、むし歯にならないことは私も同感です。
もちろん母乳であろうがなかろうが、いつでもどこでも飲み物や食べ物をもらっているようなお子さんがいれば、当然むし歯の危険が大きいことはいうまでもありません。
ご意見を下さった方にお礼を申します。 俵本寛志

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