【母乳とむし歯―現在の考え方】
小児科と小児歯科の保健検討委員会
平成16年1月16日
1.母乳とむし歯
母乳を飲ませながら寝かせたり、夜泣きのときに母乳を飲ませることは古くからおこなわれていることで、一般の育児書にも記載されている。ところが、母乳を幼児期になっても長く飲んでいるとむし歯に成りやすいと言われている。そこで母乳とむし歯との関係について、母乳栄養の子どもに何故むし歯が生じるのか、その原因として母乳そのものが問題なのか、あるいは母乳が子どもの歯に異物として常時付着することが問題なのかなど検討し、寝る前に母乳を与えることの影響を整理して、その正しい指導をまとめておくことが必要である。
母乳には、栄養学的、免疫学的そして精神的、経済面にも利点がある。なかでも母乳の精神的影響についてポリグラフを使った研究では遊び飲みをしながら眠る母乳行動が、子どもの精神的安定には効果があることが分かっている。現在、子育てが理論的に考えられている風潮の中で、母乳を与えることは最も強い親子の結びつきであり、母乳栄養を薦めてすすめていきたい。
2.母乳の飲み方とむし歯の問題
乳幼児は母乳を飲むとき、舌を上顎に押し付けてしごいて飲むので、上の前歯に母乳が付着しやすく、母乳が停滞するから、上の前歯がむし歯になりやすい。下の前歯には、母乳が溜まる停留時間は短く、さらに唾液によっても洗い流されるから下の前歯はむし歯になり難い。しかし夜間は唾液の分泌が減少するのでむし歯になりやすい。
基本的には授乳後に毎回歯を磨く状況であれば、夜間に母乳を与えても安心であるけれど、子育ての実際に当たっては難しい。
子育ての現場では、理論(むし歯予防)と実際(子育て)がいつの時代でも平行線をたどり、今日に至っている。乳歯は、やがて生え変わるので子育てを優先するという考えは小児歯科の立場からは正しくない。乳歯と永久歯は一度に生え変わるわけではないので、乳歯がむし歯になるような悪い口腔内状態では永久歯もやがてむし歯になる可能性が大きいからである。
3.授乳とむし歯の原因
歯が生えると同時にむし歯の原因菌であるミュータンス連鎖球菌が常在菌として歯の表面で成育し始める。歯をきれいにしておかないと歯の表層のエナメル質表面に食物残渣などの堆積物がたまり、そこに母乳が溜まるとミュータンス連鎖球菌は乳糖を解糖し増殖する。そのときに酸を産生してエナメル質表面に脱灰が生じる。哺乳後、歯をきれいにすると唾液中のカルシウムが脱灰部分に沈着しもとに戻す。これを再石灰化という。このように歯をきれいにすると母乳を与えても日夜、エナメル質表面では脱灰と再石灰化が交互に起こって歯は健康を保っている。ところが哺乳後、歯をきれいにしないで堆積物がたまった状態にしておくと脱灰は再石灰化を上回り、むし歯となる。夜間は唾液の分泌が減少するのでこの傾向をさらに助長する。母乳そのものはむし歯の原因とならないが「お口のケア」が悪いとむし歯となる。
4.対策
食物残渣が歯の表面に付着しないよう「お口のケア」が大切である。
*歯が生えたら母乳を与えた後に、指に巻いたガーゼや綿棒で、ことに上の前歯を清拭する。歯磨きをさせてくれる1歳過ぎの年齢では、母乳を与える前に歯を磨き、与えた後でガーゼや綿棒で清拭する。歯が磨けなくても口腔内の清拭を心掛ける。
*口腔内細菌叢の関係でむし歯になりやすい乳幼児が存在する。この診断は小児歯科専門医でないとできないので、1歳以降に母乳を与えている場合は、一度小児歯科を受診し、相談した方がよい。
以上読んでみられていかがでしたか?
(青字や赤字のところは、私が少し問題があると感じた箇所です。)
充分納得され、お子さんのむし歯予防に役立ちそうでしょうか。
この文章は、小児科と小児歯科の学会関係者が、共同でまとめたものです。
内容の多くは異論を挟むものではありません。
しかし大阪のおばちゃんに、このような内容の指導をすれば、きっと頭から湯気を出しておこることでしょう。
特に、「4.対策」のところで、「母乳を与える前に歯を磨き、与えた後でガーゼや綿棒で清拭する」と述べている箇所です。
大阪のおばちゃんは、きっとこう言うでしょう。
「あんた何ゆうてんのん、あほちゃうか。こんなことまいどまいどできるわけないやろ。やれるもんやったらあんたしてみ。」
これを解説すると、「あなたとんでもないこと言われますね、母乳を与えるたびに毎回歯を磨くなんて出来ませんよ。もし出来るのならあなた御自身でしてみられてはいかがですか?無理なことおっしゃらないでください」ということでしょう。
そこで私からの提案:
歯磨きが困難な赤ちゃんの場合、授乳の後に湯冷ましを2〜3口飲ませるだけでも、お口の中は結構きれいになりますよ。飲まずに出せば、ガーゼかタオルで拭いてあげてください。
何より大切なことは、授乳期間中は決して市販のお菓子や、飲料の類を与えないことです。